Etsuhaのモンハン日記と夜叉丸のネタ日記
by yaksaboy
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[モン]ヘタレ剣士ETSUHAの日記_009-B-II
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■第9話 B-Part-II■
『Darkness』
~(暗黒)~
●あらすじ●
kannoeにライセンスを渡し新弟子・kannoeと別行動になったETSUHAが見たものは、ルーキーの上空を飛び交う雄火竜"リオレウス"の一群の姿だった!!
一方ギルドカウンターの留守を任された副ギルドマスターにハンター用武具の使用を許可されなかった無資格ハンターたちは衛兵隊と交渉し、臨時衛兵隊としてリオレウスに対抗すべく立ち上がった。
酒場を飛び出すと、ウチ達が体勢を整えるまでのたった数刻で、街の破壊は目を覆いたくなる程に深刻な状況になっていた。
誰も口に出してこそ怒りはしなかったが、押し殺した決意が、同じ緑に染め抜かれた外套を通して伝播していくのが感じられた。
臨時衛兵隊・隊長
「それじゃあみんな、手筈通りに頼む。
なぁに、今までの狩りと変わりゃしない‥‥俺達の手で、ルーキーの街を守るんだ‥‥!!」
臨時衛兵小隊は一丸となって広場を駆け抜けると、小隊長に任命された男――酒場でウチらに声をかけたあの男だ――の合図で更に3人ずつの班に分かれて街中へ散って行った。
――待ってな、リオレウスども‥‥!
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・
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石畳の路地を抜け、物陰から物陰へ。ウチが率いる事になった臨時衛兵小隊・第3班はルーキーの中央に位置する、住宅区に入っていた。
ハンター達が酒場に持ち寄っていた情報をかき集めた結果、ここが一番被害が少なかったからだ。
第3班員・少女
「‥‥どうかしたんですか、エツハさん?」
ウチがちらりと背後に視線をやると、不意に付き従っていた2人の班員の片割れと目が合ってしまった。途端に少しばかり心細そうだった表情が、急に花が咲いたように綻ぶ。
ETSUHA
「いや‥‥緊張してないかな、と思ってね」
第3班員・少女
「やだな、大丈夫ですよ! ‥‥え、いや‥‥ホントはちょっと。ホントにちょっとですよ? 緊張してるかも」
そう言って、舌を出しながら笑う。思わず釣られて目尻が下がるような、可憐な女の子だった。
もう1人の少年もそうだ。彼の方がずっと蒼白な顔色で入れ込んでいるようだけど、時折唇を噛んで震えを止めようとする姿は、まだまだ少女同様あどけない。
これが、理由だった。
集まった無資格ハンターの中で上位3人の経験と実力があるからこそ、まだ仮資格も持たないこの子達の監督を任されたのだ。
――カンノエと同い年ぐらい‥‥かな。
不意に、脳裏にアイツの脳天気な顔が浮かんで来た。どうにもアイツが絡むと緊張とか、緊迫といった言葉からは縁遠くなるような‥‥狩りは無事に行ってるのかな。
いや、行ってる筈、だ。
今頃"ヴァイパーバイト"ぐらい、造ってるかもしれない。
気を取り直して、ウチは手甲をした手で少女の頭をポンポン、と叩いてやった。
ETSUHA
「‥‥大丈夫。ウチだって、初めて飛竜を狩った時は緊張したんだから。
でもウチの師匠筋に当たる人がちゃんとフォローしてくれたからね。ちゃんと獲物も仕留められた」
第3班員・少女
「エツハさんがその時狩ったのって‥‥?」
ETSUHA
「"リオレウス"さ。今と同じだね」
だから大丈夫、と続けて微笑んでおいて、ウチはそっと彼女たちから目を逸らした。
――‥‥相変わらず、下手な嘘だなぁ。
師匠に聞かれたら笑われるかもしれない。どうせつくなら、もっとデカい嘘にしとけ!‥‥とか何とか。
でもいいんだ、これで。少なくとも今ので、2人の表情に明るさが戻ってきた。それだけで十分。
――出来ればこの子たちには、こんな過酷な状況で初陣なんか切らせずに済めばいいんだけど、ね。
しかし、ウチの幽かな祈りは、あっさり神様に却下されたらしい。
細い路地を選んで駆けてきたウチらは、後1つ角を曲がれば大通り、という所で急停止する事になった。
ETSUHA
「!! 2人とも止まれ!‥‥静かに」
胃の腑から下が氷のギロチンで切り落とされるような、喪失感に似た悪寒。頭で考えるより先に身を伏せ、壁際に寄せていた。
第3班員・少年
「‥‥血のにおいだ」
そう。真新しい血と、それに炭が燃えるような焦げ臭いにおい。
そして。
バキッ‥‥ゴリン、ブチュッ
聞き慣れた低いうなり声と、巨大な顎が骨ごと肉を咀嚼する音。
いつもの光景‥‥な筈だ。ここが町中でなく、アレが無力な元・人間でないとすれば。
信心深ければ神に祈りを捧げるんだろうけど、生憎そんな真似事は10年近くご無沙汰してる。 唾を呑んで残酷な想像に耐えるしかない。
と。
第3班員・少女
「うぁぁぁあああああっっ!!」
絶叫が聞こえた。
続いて、ライトボウガンが火を噴く。
大通りで翼を休めていたリオレウスが振り向き、自分に向かって駆けてくる緑色の小柄な少女の姿に向かって唸る。
ETSUHA
「バカッ! 何してんの早く戻――」
ゴガァアアアアッッ!!
一瞬で全ての音が掻き消えた。まさに『魂消る(たまげる)』という形容に相応しい、巨体に宿る力そのものが体現したかのような、咆哮。
声が届かなかった。反射的にリオレウスの巨体が肺一杯に空気を吸う挙動が見えた時点で耳を塞ぐのが精一杯で。
次の瞬間には大通り一杯に翼を広げ、猛烈な筋力を以て紅の津波と化したヤツの突進が全てを圧し潰し、削り取っていた。
悲鳴のひの字もない。
数瞬前まで確かにそこに立っていた筈の、笑顔の愛らしい少女の姿は。
土煙が次第に晴れ、ヤツが再び立ち上がってこちらを振り向いても。
血と肉とを残して、跡形もなくなっていた。
第3班員・少年
「う‥‥あ‥‥お前‥‥お前ェえええええッッ!!」
ウチが正気に返ったのは、少年が激昂した瞬間だった。ヘヴィボウガンを構え、怒りに顔を染め。躊躇無くウチはその頬に握り締めた拳を叩きつけていた。
反応する事すら出来ずヘヴィボウガンも取り落として吹っ飛ぶのを、今度は立ち上がる隙も与えずに駆け寄ってその腰を引っ掴む。ウチは脱兎の如く路地裏に向けて駆け出した。
第3班員・少年
「お、下ろせっ!! 殺してやるっ! 殺してやるーッッ!!」
駆けながら、腕から逃れようともがく少年に顔を引っ掻かれたので、腹部を思い切り締め付け抵抗がなくなった所で肩に担いだ。この方がまだ速く走れる。脇目も振らず、ウチは駆けた。
ゴガァアアアアッッ!!
背後から、身の竦む咆哮が轟く。
迷ってる暇はない。ウチは石畳を砕きながら追走してくるリオレウスの巨体をかわして薄暗い路地裏へと文字通り飛び込んだ。
少年の身を気にしている余裕はなかった。
何としてでも自分より先にリオレウスの射程から逃がしてやる。
彼を肩から投げ出した次の瞬間、続いて宙に飛んだウチの体は、それより遥かに強大な力で横薙ぎに吹っ飛ばされた。爪先が勢いよく空に向かって跳ね上がり、天地が目まぐるしく入れ替わる。
受け身どころじゃなかった。堅い物に激突して呼吸が止まっても、それが床なのか壁なのかさえわからない。
――‥‥でも、何とか生きてる。
腹部を強打して止まった呼吸を何とか整え、暗転しそうになる意識を頭を振って止めながら、ウチは少年の頬を引っぱたいて叩き起こした。
苦しげに息をついて瞬きする少年の襟を更に掴んで無理矢理立たせ、突き飛ばすように路地裏を奥へ奥へと歩かせた。
だがそれも、すぐに終わった。
ETSUHA
「くそ‥‥行き止まりか‥‥」
周りは煉瓦と塗り固められた壁。人が二人並んで歩けばそれで一杯になりそうな幅しかないからリオレウスがあの巨体をねじ込んで来る事はないだろうけど、出来れば一歩でも遠くこの区画を脱出したかった。
第3班員・少年
「何で‥‥何で」
ETSUHA
「戦わせてくれなかったかって? 勝算がないからよ」
第3班員・少年
「やってみなきゃわかんないでしょう!! イーナの仇を!!」
少年の歯を食いしばった面に激情からか涙がぼろぼろと零れ落ちる。
――‥‥イーナ、って言ったのか。
うっかりしてた。彼に言われるまで名前も聞いてなかったんだ。
ETSUHA
「‥‥アンタをイーナみたいな目に遇わせる訳にはいかないんだよ」
第3班員・少年
「俺は!! イーナとずっと一緒だったんだ!!!
仇が討てるなら、死んでも構わないんだよ!!」
ウチの胸ぐらを掴んで詰め寄る少年の怒りは、痛い程伝わってくる。まるで体の芯にマグマでも宿しているかのように、彼の泥だらけになった拳からは焼け付く熱気が感じられた。
でも。だからこそ。
ウチは彼を一旦突き飛ばして壁際に追いやると、有無を言わせないだけの殺気を込め、その襟首をもう一度握り返した。
ETSUHA
「イーナの仇を取りたいってのがアンタの目的なら、易々と死ぬなんて言うな‥‥!!
今またさっきみたいに突っ込んでも、紙くずみたいに八つ裂きにされて終・わ・り・だ!!!
‥‥準備が要る。それこそ目的を成し遂げたいなら、どんな手を使ってでも、勝つ為に最善を尽くすのがハンターだ‥‥!!」
そうだ。
ウチはそう、幾人もの先輩ハンター達に教わって来た。
だからウチに出来る事は、そうやって目的を達成させられるという事を身を以て体験させてやる事ぐらいしかない。
――でなきゃ、いきなり幼なじみを目の前で失ったこの子がこの狩りに身を投じた意味なんて‥‥。
第3班員・少年
「は、班長!!」
ETSUHA
「!」
少年の声で、ウチは振り向き様に背負った両手持ちの長剣を抜き放った。むき出しの土の地面に切っ先を深く突き立て、剣の峰に肩を添えて全身で来たるべき圧力に備える。
準備が整うか整わないか。
煮えたぎる灼熱の火球が、長剣にぶち当たった。
ETSUHA
「ぐうっ!!」
長剣が一気に灼け、爆ぜ飛んだ火球の衝撃に全身が軋む。
何とか耐え凌ぎ酸素を求めて顔を上げた目に飛び込んで来たのは、路地の向こう。大通りからこちらを睨み再び灼熱を吐こうとするリオレウスのシルエットだった。
――1発‥‥2発‥‥‥‥3、4発‥‥ッ。
断続して襲い来る猛烈な炎熱の打撃は、あっと言う間にウチの体力を奪い尽くした。
手甲も甲冑の肩甲も度重なる火球を受けて徐々にひしゃげ、柄にやった右手はもう添えているだけで限界。
膝が震える。兜の面頬を下ろしても喉が熱気でやられズキズキと痛んだ。
もう何度目になるかわからない衝撃が襲う。
長剣が嫌な軋みを挙げた。ずっとウチと少年を庇い続けた鋼鉄の確かな重みが歪む。
――もう保たない。
こんな所で‥‥。
長剣の飾り穴の向こうで、リオレウスが低く唸っている。
しぶといな、と悪態をついているように見えた。
くそう。
ウチの剣があれば。
ウチの鎧があれば。
まだ数分なら、振り絞って戦うぐらいの力はあるのに。
ここが逃げ場のない路地じゃなかったら。
後ろにこの子を抱えてなかったら。
――たら。
――れば。
ウチは負け犬だった。
詰まれたチェスを打つ惨めな負け犬。後数手で、完全な敗北を待つだけの。
くそう。
後数手で訪れる完全な敗北。
――死。
ETSUHA
「――――ッッッ!!!」
何かがウチを突き動かした。
突き刺していた長剣を引き抜き、盾として構えたまま路地の出口に。今まさに火球を放とうとするリオレウスの顎に向かって、突進していた。
――1発‥‥!!
わずかに火球と射線軸をズラして衝撃をいなす。
足をもつれさせながら、それでもほとんどの衝撃が横の壁とウチ自身で立ち消えたのを感じつつ更に前へ。
――2発‥‥!!
切っ先を地面に、柄の先を壁に押しつけながら、半ば背負った長剣で受けるように火球を跳ね上げる。
砕けた煉瓦や屋根板の破片をくぐり抜けて前へ。
後数歩で間合いに入る!!!
雄叫びを挙げる力すら惜しみ、一層の力を込めて駆けた。
――3発‥‥ッ!!
そして――。
その瞬間、ウチの手の中で。
幾度もウチと少年を庇い続けてきた鋼鉄の長剣は、真っ二つに折れ飛んだのだった。
正面から防ぎきれなかった火球の爆発を受けたウチの身体も、必死で駆けた距離の半分程まで、無様に弾き飛ばされた。
決起を誓った緑の外套も、鋼鉄製の鎧兜も、熱と衝撃でねじ曲がりひしゃげ、歪み、砕けた。
ズタボロのようなウチだけが、
ひんやりとしたむき出しの土の地面に横たわるだけ。
勝利を高らかに叫ぶようなリオレウスの咆哮が路地中に轟き渡った。
翼をはためかせ、今度こそその存在を灰にせしめんと開かれた顎が真っ赤な炎を吐きだし――。
ウチの視界は真っ暗に閉ざされた。
暗い‥‥。
終わり‥‥?
死ぬんだ‥‥。
――守れなかったなぁ‥‥。
(狩りの為に万全を尽くすのがハンター。その紙屑のような装備こそが、万全でない証だったな)
そう‥‥かもしれない。
結局、あの酒場で男の口車に乗ったウチらは、義憤と恐怖で飛び出して行った少年少女と何も変わらない。
やりきれずに怒りに駆られ、火に飛び込んで行く羽虫のように。
(剣が欲しいか? 奴らの甲殻を断ち斬り、命を根絶する事の出来る剣が)
――欲しい。
(鎧が欲しいか! 奴らの炎を遮り、牙も爪も通さない鎧が欲しいか)
――欲しい‥‥!
男
「ならば取れ!!
貴様の目の前にあるのは何だ!?」
急に死にかけていた意識が覚醒した。
根絶されていた音という音が津波のように押し寄せ、緩やかに停止しようとしていたウチの全てが息を吹き返す。
視界が暗い。
だがそれは意識が飲み込まれようとしてたあの暗黒のせいじゃなかった。
ゴガァアアアアッッ!!
身の毛のよだつような咆哮と共に凄まじい衝撃音が轟いた。
だがそれはこの暗黒に阻まれて、火の粉1つこちらには届かない。
迷っている暇はなかった。
ウチは何かに吸い込まれるように立ち上がると、視界を閉ざしていた物の上部へ手を伸ばした。暗黒から延びる、柄の部分に。
――巨きい。
渾身の力を込めて、暗黒を引き揚げる。同時にまた、リオレウスの咆哮が轟いた。
再び、衝撃音。柄を握った手と暗黒に触れた肩から、分厚い鋼を揺るがす鐘のような音色と振動が伝わって来る。だがその火は、ウチにまで届かずに消える。
ただ皮肉にもその衝撃によって暗黒は地面から解放され、宙へと跳ね上がった。
路地の入り口から挿す光が目を灼く。舞い散る火の粉と焦げ臭いにおいが吹き込んで来る。
そしてその向こうに、大きく顎を開いたままのヤツの――雄火竜"リオレウス"の貌(かお)があった。
ウチの瞳と、ヤツのターキッシュブルーの瞳が交錯した。
ブツンッ
ウチの中で、何かが切れた。
ETSUHA
「いやぁあああああッッ!!」
刹那、全身全霊を以て暗黒をヤツの顎に叩きつけていた。
背後に流れていた切っ先を、捻転を使って摺り上げる形で跳ね上げる。
確かな手応えと共に今まで怒りと闘志の怒号だけを放ち続けていたリオレウスの真っ赤に裂けた口から、耳を衝く絶叫が迸った。
――ざまぁ見ろ‥‥っ!!
痛快な気分で笑いながら、しかしそれがウチの限界だった。
握り締めていた手から力が抜け、凄まじい重量と遠心力のかかった暗黒は高々と宙に舞う。
大通りに降り注ぐ陽光を受けて、暗黒は鈍い輝きを放って舞った。
何て巨きいんだろう。
ハンター用の大剣でも、あそこまで巨大な物は類を見ない。まるで分厚い鋼板の周囲に辛うじて刃になる形に切り抜いただけというような、圧倒的な質量の塊。
落ちてくる。
こっちに。
力は使い果たして、もう立ち上がる気力も、飛び退いてあの暗黒から身をかわす余力も残っていなかった。
――せめてアイツのトドメぐらいは刺しときたかったんだけど‥‥。
一矢報いただけでも、良しとするかな‥‥。
そう、心中に呟こうとした時だった。
男
「欲のない奴だな。どうせならルーキーからあの薄汚い飛竜共を一掃するまでは死ねない、ぐらいの事は言わんのか?」
――この声!
再び漆黒の闇に抱き留められた、と思った瞬間、頭上まで回転しながら落下してきていたあの暗黒の塊がガッシリと宙で停止した。
男
「まあいい。貴様等は此処で休んでいろ。
後は我ら"黒のハンター"が狩ってやる!!」
力強い大きな声が口にした通り、ウチの目の前には全身黒の武具で身を固めた、一種異様な出で立ちのハンターが立っていた。
不思議な事に、飛竜を象った奇妙な材質の甲冑に身を包んだ巨躯のハンターの放つ圧倒的な存在感は。
消え入りかけていたウチの目に、ひどく快く映っていた。
暗黒の巨剣を繰る、漆黒のハンター。
それがまるで、今ウチの最も欲しいものそのものに見えたからかもしれない。
――暗黒と漆黒が象徴する、"力"というものに。
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