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Etsuhaのモンハン日記と夜叉丸のネタ日記
by yaksaboy
[モン]ヘタレ剣士ETSUHAの日記_010-B-I


■第10話 B-Part-I■

『New Power』

~(選択)~


●あらすじ●
 村に帰ったヘタレ剣士ETSUHAを待っていたのは老獪な村長が用意した奇天烈新人Kannoeだった!
 村長からの命令でミナガルデ型城塞都市"ルーキー"にやってきた二人。ETSUHAKannoeは別行動を取る事になった。
 しかし街に残ったETSUHAは、突如現れた雄火竜"リオレウス"の群れに襲われ、無資格ハンターたちとともに臨時衛兵隊として対抗るも半壊。
 そんな時、突如全身を漆黒の装備に包んだハンターが加勢。あっと言う間に苦戦していたリオレウスを屠ってしまった。





 二つの選択肢があった。

 見過ごすか

            見過ごさないか



 ウチは‥‥私は、前者を選んだ。選び、そして自分の考えがいかに甘かったかを思い知らされた。意志の実現には力が要る。それも精神力や行動力といった概念的なものでなく、もっと直接的で、目の前の敵を屠る"力"が。

 だから私は、力を欲した。

 その為なら規律を犯しても構わないと思うぐらいに――。



 真新しい金属と革の匂い。全身を隈無く包む装備の感触は、たまらなく心地よかった。一種違う自分に生まれ変わった気分すらする。
 ‥‥少なくとももう二度と、遅れは取らない。
 部屋の片隅に脱ぎ捨てた緑色の外套とひしゃげた甲冑を一蔑し、我知らず歯噛みしていた。薬液に浸し包帯を巻いた左腕がずくんと疼く。痛み止めで痛覚が鈍っていても、その疼きだけははっきりと知覚できた。

 扉を開け、路地に降り立つ。
 周囲には私と同じ、漆黒の甲冑を身に纏った集団がひしめいていた。整然と居並んだ黒ずくめの集団。"黒のハンターズ"、と彼らは名乗った。

「どうかな、その装備の具合は」

 楽しげに声を掛けてきたのは、そんな黒のハンター達を率いる初老の男性だった。黒地に金糸で縁取りをした意匠はハンター達の装備と揃えられているが、彼はハンターではない。

「‥‥いいですね。飛竜の素材で作った物より軽いですし‥‥音も鳴らない」

 そう言って実際に目の前に手をかざし、指を幾度か開いたり閉じたりして見せる。軽いとは言え分厚い漆黒の甲冑具足は、しかしほとんど耳障りな音を立てなかった。鎧の継ぎ目も驚く程滑らかに動く。
 私のそんな感想に、初老の男性はひどく嬉しそうに顔を綻ばせた。

「そうだろう。狩猟する装備ともなれば、隠密性は高くなくては意味がないからね。で、防具はいいとして武器の方なんだが‥‥」

 少し言い置いて、彼は傍らに目配せする。見計らったようなタイミングで背後にかしずいていた側近らしきハンターが進み出、手にしていた長大な包みを恭しく私に向かって差し出した。
 この長さ。重量感。
 喉がカラカラに干涸らびていた。震える手で差し出された包みの紗(うすぎぬ)を解いていくと‥‥。



 心臓が弾けそうになった。

 期待に鼓動が早鐘を撃ち始める。



 あの路地裏で私を飛竜の火焔から救った巨大な漆黒と類似系の、だがそれより遥かに直線的な板状の大剣。

「稀に発掘される太古の対龍大剣"エピタフプレート"をベースに切れ味に特化した重量武器として開発した試作品でね。私は"オベリスクプレート"と呼んでいる」
「‥‥あの男‥‥隊長が使っていたのは?」

 私はその剣、"オベリスクプレート"の柄を握って軽く持ち上げてみた。重量は確かにあるが、軽い。重心や柄の長さとのバランスからいって、大剣としては取り回し易い部類に入るだろう。
 初老の男性は少し残念そうに眉をひそめると、しかしその逡巡もたちどころに消して説明してくれた。

「あれも試作品の一つだ。ただ、余りに重量が有りすぎてね。"彼"以外に使いこなせる人間がいないから、あれ一振りしか作ってない。名は――」



 ――"アポカリプス・プレート"

 それがあの、大剣とすら呼べない程巨大な剣の名だった。

 幾つもの試作品を造り、研究の為に発掘された墓碑のようなエピタフプレートに囲まれ幾月も過ごす内に、一人の天才鍛冶工が取り憑かれたように鍛え上げた逸品。
 天啓だったと、鍛冶工は言った。
 それ故に、"啓示"という名を与えられたと言う。

 それを背負った巨躯の男は、集団の端の方に一人佇んでいた。
 目が合う。



 きっと私はその時、笑っていたのだと思う。
 自分でも覚えていない。
 ただ、手の中のオベリスクプレートと、全身を包む黒合金の甲冑がひどく気持ちを昂ぶらせていた。

 だからあの初老の男性が発した問にも、迷う事無く答えたんだろう。

「で、どうかな。この黒のライセンスを‥‥受け取ってもらえるだろうか」

 そう。
 
 "是"、と。


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# by yaksaboy | 2006-08-11 14:24 | モンスターハンター日記